仕事術・自己成長

「お客様と話さないでほしい」と言われた日

安心感があると言われる私も、昔は全く違いました。

前回の記事「派手さはないけれど、長く続けていること」を多くの方に読んで頂き、ありがとうございました。

記事を公開した後、社内外の方から感想を頂く機会がありました。

その中で、ある20代の同僚から朝オフィスで声をかけられました。

「長尾さん、記事読みました!」

わざわざ声をかけてくれて嬉しかったです。

そしてその後のやり取りで、こんなコメントをもらいました。

「今の長尾さんの考え方も興味がありますが、どういう過程でそうなったのか知りたいです」

なるほどなと思いました。

確かに今の自分だけを見ると、最初からこうだったように見えるかもしれません。

でも実際は全くそんなことはありません。

むしろ昔の私は、今とはかなり違う人間だったと思います(笑)。

特にここ5年ほどで知り合った方には、そう見えるかもしれません。

今回は、今でも忘れられない失敗と挫折について書いてみようと思います。

(やはり少し気恥ずかしいですね。。)

自信だけは人一倍ありました

20代後半から30代前半の頃です。

当時私は、新卒で入社した国内大手SIerに在籍していました。

その頃私は、新しいサービス立ち上げの仕事に関わっていました。

今では当たり前になった月額課金型のサービス(XaaS)ですが、当時はまだ黎明期に近く、かなり先駆的な取り組みでした。

システムを構築して納品する、いわゆるSI型ビジネスが主流だった頃です。

その中で私は、

・サービス企画・設計
・システムアーキテクチャ
・運用モデル
・データセンター運用
・製品理解
・ビジネスモデル

などを幅広く考えながら、社内にもほとんどノウハウのない新サービスを形にする仕事に携わっていました。

正直、とても面白かったです。

そして少し危険でもありました。

サービス企画の立ち上げ初期から関わっていたこともあり、システム面もサービス面も比較的深く理解していました。

当時は少人数で始まった組織で、グループ会社のメンバーも複数参画していましたが、サービス全体を横断的に把握している人は多くありませんでした。

だからでしょうか。

いつの間にか、

「自分が一番分かっている」

「自分ならできる」

「自分が決めれば前に進む」

そんな気持ちが強くなっていました。

実際、この頃まで私は大きな失敗をほとんど経験していませんでした。

成果もそれなりに出ていました。

この仕事をするために異動してきたこともあり、社内でも少しずつ認知されるようになっていました。

今振り返ると、かなり仕事を甘く見ていました。

最大のお客様への導入

紆余曲折ありましたが、無事にサービスを市場へローンチできました。

そしてその後、そのサービスを当時最大規模のお客様へ導入するプロジェクトが始まりました。

ビッグネームで大手のお客様であり、このサービスの成否を左右する重要なプロジェクトでもありました。

そして私は、その導入プロジェクトの中心メンバーとして抜擢されました。

大変そうだなぁと思いつつ、正直嬉しかったです。

期待されているとも感じていました。

正直なところ、

「これまでで一番大きな案件だ」

「大変そうだけど、できるだろう」

そんな気持ちだったと思います。

もちろん一人で仕事をしていたわけではありません。

社内メンバーもいました。

グループ会社の委託先メンバーもいました。

皆でプロジェクトを進めていました。

ただ今振り返ると、私はチームを活かすというより、自分の考えを中心に物事を進めていたように思います。

プロジェクトの途中で、システム構成に関する重要な判断が必要になりました。

当時はコスト面やスケジュール面のプレッシャーもありました。

私はサーバー台数を減らして対応する判断をしました。

いわゆるサイジングの問題です。

上司から

「本当に問題ないんだよね?」

と確認された時も、

私は迷わず

「大丈夫です!」

と答えていました。

結果として、その判断は大きな障害につながりました。

稼働前のテストで不具合が発覚し、スケジュールの延伸に留まらず、再度点検して、やり直しになってしまったのです。

数千人規模が利用するシステムだったため影響も大きく、これを機に、お客様との関係も急速に悪化しました。

会議室の空気は日に日に重くなり、

社内からも状況説明を求められ、

私は初めて本当の意味で追い込まれました。

今でも忘れられない場面

当時の私は、お客様とのコミュニケーションにも問題がありました。

今思うと本当に未熟でした。

先方の責任者クラスとの打ち合わせでのことです。

私はサービス内容に自信がありました。

だからでしょうか。

お客様が質問をし始めた時、最後まで聞かずに途中で話し始めてしまったのです。

「それはですね・・・」

「そこは大丈夫です・・・」

「実は・・・」

今思うと、きちんと質問に答えることよりも、自分の知識を説明することに意識が向いていたように感じています。

その時、お客様の表情が変わったことも記憶しています。

明らかに不快そうだったと思います。

横にいた営業担当の方が慌ててフォローしていたこともとてもよく覚えています。

でも当時の私は、自分をうまくコントロールできなかったのだと思います。

「あ、やべっ。やっちゃった。」

くらいにしか思っていなかったんだと思います。

今なら分かります。

お客様は技術の説明を聞きたかったのではなく、きちんと自分の話を受け止めて、そしてプロジェクトを任せられるのか、安心したかったのだと思います。

今でも忘れられない言葉

そして、前述した問題発覚後、リカバリに忙しくしているある日上司に呼ばれました。

上司は少し言いづらそうに話し始めました。

そして、

「長尾さん、しばらくお客様との直接コミュニケーションは控えてほしい」

そう言われたのです。

正直、かなりショックでした。

今でもそのシーンを鮮明に覚えています。

オフィスの隅にある赤いカーペットのソファースペース。

上司と対角線に座っていたあの場所を。

もちろんプロジェクトで問題を起こしたことは認めていました。

でも当時の私は、

「一番内容を分かっているのは自分だ」

「自分が話した方が早い」

「なんでそこを取り上げられるんだ」

と本気で思っていました。

正直、納得できませんでした。

でも、今はあの時の上司の判断が正しかったことが分かります。

後になって分かったこと

でもその後、プロジェクトがなんとか落ち着き、少し時間が経った頃にようやく見えてきたものがありました。

当時の私は、

個人としての正しさしか見えていませんでした。

自分が正しい。

自分が詳しい。

自分が頑張っている。

もうかなり前の話なのですが、そんなことばかりに気を取られていたように感じます。

でも仕事というのは、

個人対個人ではありません。

組織対組織です。

会社対会社です。

そして周囲が見ているのは知識や技術力だけではありません。

信頼できるか。

安心して任せられるか。

一緒に仕事をしたいと思えるか。

そういったことも含めて評価されているのだと、後になって気づきました。

当時の私は、その視点が圧倒的に不足していました。

それでもあの頃の自分はすぐには変われなかった

残念ながら、この失敗だけで人が劇的に変わるわけではありませんでした。

今振り返ると、この経験は確実に私の考え方を変えるきっかけになったように感じています。

ただ、この経験の後、すぐに変われたわけではありません。

相変わらず失敗もしました。

一人で抱え込むこともありました。

自分の正しさに固執することもありました。

でも、当時はどうすればいいのかよくわかっていなかったようにも感じます。

あの頃の私は、まだ自分ののようなものがなく、その型を本格的に構築し始めたときだと記憶しています。

そのあたりから、意識的に周りの先輩や上司がどのように仕事をしているのか観察し、いいところは盗み、自分でも試してみようとしていたと記憶しています。

人それぞれ性格もスタイルも違うので表面的な真似ではダメなんだろうなというふわっとした感覚はあったはずです。

それでも

お客様への接し方、

準備の仕方、

トラブル時の態度、

社内上層部への言葉の選び方など、

つぶさに観察していました。

幸い周りに参考となる先輩や上司が多かったように感じます。

今振り返ると、その頃から少しずつ視線が自分から周囲へ向き始めていたのかもしれません。

以前の私は、

「自分がどう成果を出すか」

に意識が向いていました。

でもこの頃から、

「成果を出している人は何を見ているのか」

に興味を持つようになっていたように感じます。

リベンジを誓った

少し話が、前後しましたが、先の経験は本当に悔しかったです。

正直、二度と経験したくないという気持ちが強く残ったと思います。

でも今振り返ると、私のキャリアの中でも特に大きな転機だったと思います。

私はこの経験をきっかけに密かにリベンジを誓いました。

「次は必ずやり切る。」

「次は同じ失敗を繰り返さない。」

「次はもっと周囲を巻き込める人になる。」

「次は、お客様の話をちゃんと聞ける人になる。」

そう思いながら次のプロジェクトへ向かいました。

ちなみにあの時の私は、笑顔や雰囲気づくりなんてほとんど気にしていませんでした。

もちろん人間関係が悪かったわけではありません。

同僚とも普通に会話していましたし、基本的には誠実に接していたと思います。

でも、

「プロジェクトが成功すればそれでいい」

そう考えていました。

今振り返ると、

あの頃の自分には見えていなかったものがたくさんありました。

そして何より、

あの日、

「お客様と話さないでほしい」

と言われたことは、

当時の私にとって大きな挫折でした。

でも今振り返ると、

あの言葉がなければ今の私はいなかったと思います。

当時はそう思えませんでしたが、今では感謝している言葉の一つです。

その後も数年間、自分なりの型を模索しながら仕事を続けました。

そして私は別の大規模プロジェクトで再びお客様の前に立つ機会を得ました。

そして、少しずつではありますが、

技術や知識だけではなく、

信頼や安心感も含めて仕事をすることの大切さを学んでいきました。

その話は、また別の機会に書いてみたいと思います。

今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。